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焼き鳥

やきとり(日本食)


[焼き鳥]
現代の解釈では、焼き鳥とは鶏肉・鶏の臓器を一口大に切ったものを竹串を刺して焼いたもので、スズメなど小鳥を串に刺し丸焼きにしたものも焼き鳥と呼ばれているので、概要は名前の通り鳥類の料理である。しかし一般的な辞書によれば「鳥のほか、豚や牛の臓物を焼いたものにもいうことがある」と掲載されているので、例外が存在することを知っておかなければならない。「焼き鳥」という言葉からすれば古来よりスズメやウズラなどの小鳥、又は鶏が原材料であったのではないかと思われるが、明治末期には既に牛豚のモツを串に刺して照り焼きにした「焼き鳥」と称するものが珍味として屋台で売られていたらしい。それが大正中期頃からしだいに庶民の味として愛好者が増え、昭和期に入ると焼き鳥と言えば牛豚のモツだということが定着していたという。では焼き鳥が誕生した時、何の肉を用いていたのだろう?
[焼き鳥の起源] 明治維新明けの混乱期に「焼き鳥屋」と名付けられた屋台が始めて登場するも鶏肉は庶民にとっては高級品であり、当初は鶏ガラやスジ肉などが使われていたという。屋台が浸透するとともに串に刺す食材は多様になり、牛・豚・馬の安い部位・狗肉など、下等の部類に入るものなら何でも供されたとの話であるが、それでも庶民の人気を博し、戦後までの長い期間、いわゆる鶏肉は用いられていなかったという。焼き鳥が大衆化した一番の要因は、米軍の駐留によってもたらされたブロイラーだった。昭和40年以降ブロイラーの普及が広がり、大衆やきとり店でも現在の焼き鳥メニューと同水準になり、低価格で酒に合う、居酒屋メニューとして定着したようだ。現在では地鶏や炭焼き、希少部位などにこだわる店も増え、焼き鳥が再び高級化しているというから不思議なものである。
[名物焼き鳥] 愛媛県・今治市の名物となっている「焼き鳥」で、いわゆる焼き鳥の鉄板焼き版である。ぶ厚く傾斜のある鉄板を使い、コテ状のもので押さえつけて焼くため、火力が保たれ、脂切れが良く、また早く提供できるなど、「早い・安い・旨い」と合理的なので地元で大流行した。なかでも皮・もつが人気で特に名物とされ、パリッとした旨味をもつ。元祖は焼鳥屋「五味鳥」とされるが現在店舗はないという。
[焼き鳥の分類] 昭和中期ごろの「食べ物に関する本」によると、焼き鳥は三つに分けて認識されていたらしい。その一は、主にスズメやウズラなどの小鳥を焼いたもの。江戸時代から続くいわゆる「小鳥焼き」であるが、急速に数が減った。その二は鶏。鶏のなかでもシャモなどは高級な料理とされてきたが、鶏を使った焼き鳥は今日まで続き、最近では地鶏と銘打った焼き鳥が各地で人気を呼んでいる。三つ目がモツの焼き鳥である。牛豚だけでなく鶏のモツも扱い、大衆的な人気を得て今日、主流となった。
[焼き鳥のメニュー呼び名] 呼び名は肉の部位や味の特徴、串にしたときの形容などから付けられていることが多いが、地域や店によってさまざまな呼び方をする。以下、そうした呼称に影響を及ぼしたと思われる食肉業界における内臓の呼称と部位をまとめてみると、
舌:タン、心臓:ハツ、肝臓:レバー(キモ)、腎臓:マメ、脾臓:タチギモ(チレ)、肺:フワ(フク)、第一胃:ガツ・ミノ、第二胃:ハチノス、第三胃:センマイ、第四胃:ギアラ(アカセンマイ・アカワタ)、小腸:ヒモ(ホソ)、大腸:シマチョウとなる。また、内臓の呼称については朝鮮語起源説もあるので、その観点からチェックしてみると次のようになるという。
①ミノとガツ:牛の胃は反すう胃といい、4つの部分に分かれているが、ミノは第一胃のことで、切り開いた形が蓑笠のような三角形であることが由来だが、時には“笠(ガツ)”と呼ぶこともある。また、ガツは今日では豚の胃袋のことをいう。
②ハチノ巣:牛の第二胃のことで、表面のヒダが蜂の巣のような形をしているところからハチの巣ともいうが、朝鮮語のホルチブを直訳した言葉がハチの巣であるともいう。
③センマイ:牛の第三胃のことで、ヒダが幾重にも重なる表面の様子を指していて、朝鮮語の“千葉(チョニョブ)”の意から“千枚”としたとものらしい。
④テツチャン:牛の大腸のことだが、朝鮮語の“大腸(テッチャン)”がそのまま使われている。
⑤コブクロ:子袋、すなはち豚の子宮のこと。子袋という発想が朝鮮語からきたらしい。
⑥チレ:牛や豚の脾臓のことだが、ときには膵臓などの臓器のことを指す。南部の朝鮮語の方言の“チレ”(標準語はチラ)からきたもの。
⑦ファ:朝鮮語の肺(ブア)からきたという。
[鶏の部位による名称] ①せせり;首の剥き身で一羽からわずかしか取れない部位。②はつ:鶏の心臓のこと。③ささみ:胸の内側に2本ついている筋肉。④なんこつ:胸骨の先端の比較的柔らかい部位。⑤手羽:手羽先は羽の先端部分で肉は少なく脂肪分が多いのが特徴。また、胸肉に一番近い手羽元は羽の付け根の部分で、手羽先に比べると脂肪分は少なめ。⑥ぼんじり:尾骨の周りの肉で周囲を脂肪の塊が覆っているほんのわずかしか取れない部分。⑦きも:鶏の肝臓部位、レバー。⑧すなずり:筋胃(きんい・石や砂がためられたゴムのような強力な胃ぶくろ)、砂肝とも。⑨もも:足のつけ根から先の部分。このほか、首の皮の部分の“かわ”や、鶏の挽肉をこねて団子状にしたものを串に刺し、こんがりと焼き上げた“つくね”などもある。

総論
焼き鳥について探ってみると、大衆食とはいえ「幻の地鶏」「秘伝のタレ」「幻の部位」など、食べてみたくなる未知の串が多く存在することを知った。それらはいわゆる高級化した焼き鳥の類であり、店舗独自の宣伝文句なのであろうが、「焼き鳥」という庶民の手の届く範囲であることが一番の魅力なのかもしれない。
様々な部位の焼き鳥を手軽に食せる時代なのだから、健康・美容の観点からも、特に女性や子供に食べてほしい食材ではないだろうか。