修正依頼



ホーム今月の日本物語日本食

醤油

しょうゆ(日本食)


[醤油]
醤油(しょうゆ)は日本特有の発酵調味料ではあるが、東アジアを中心に各地に根付いている醤(ひしお)の一つに分類され、ナンプラーやニョクマムなどのアジアの魚醤は、近年では日本でも手に入れることができる。現在の醤油の姿に近い状態になったのは、味噌が作られるようになってからのことと言われているが、その起源を遡れば中国の醤に辿り着くことは味噌の項でも触れているので参照いただければ幸いである。以下、醤油の起源から現在の姿に至るまで触れ、醤油が現在も変わらず愛用される所以を探ってゆこうと思う。
[醤油前史] 日本料理で用いる調味料の数は多いが、和食の味付けの基本は醤油である。現在、日本で使用されている醤油のほとんどが大豆醤油であるが、日本での醤油自体の起源は案外古く、縄文時代の末期頃には肉を塩漬けした「肉醤(ししびしお)」、魚を塩で漬けた「魚醤(うおびしお)」、野菜や果物・海草などによる「草醤(くさびしお)」、穀物による「穀醤(こくびしお)」の四種が作られていたという。今日では、ハタハタやイワシを使った秋田の「しょっつる」、イカの内臓やイワシを使った能登の「いしる」、イカナゴを使った香川の「いかなご醤油」が魚醤としてよく知られている。しかし、醤油の本流は穀物原料の穀醤であり、大和朝廷の時代に中国から「唐醤(からひしお)」や朝鮮半島の「高麗醤(こまひしお)」の製法が伝わると、穀物原料の醤(ひしお)が本格的に作られるようになったようだ。「大宝律令」によると醤院(ひしおつかさ)という役所が設置され、市場でも売られていたという。平安時代になると、平安京の西の市の味噌店と並び東の市では醤店が設けられ、醤漬けの魚なとも売られていたらしい。また、醤は酢や塩、酒とともに四種器と呼ばれて貴族の宴会で多用されていたという。我が国最初の分類体百科事典「倭名類聚抄」にも加熱した大豆に塩や麹、水を加えて発酵させた醤についての記述がある。鎌倉時代に入ると、宋に渡って經山寺で修行して帰国した僧・覚心によって經山寺味噌(現在の金山時味噌)の製法が伝えられたことから、現在の醤油の元祖といわれる「溜(たまり)」が作られるようになった。經山寺味噌の製造過程で桶の底にたまる液体に野菜や魚などを漬けるとおいしいということを当時の人々が発見したのに相違ない。これが溜の由来で、そのまったりとした深い味わいが刺身やおひたしのかけ醤油として知られる紀州の湯浅醤油となって引き継がれてきたという。また、室町時代末期になると「醤油」という呼び名がみられるようになり、同時に一般家庭にも徐々に浸透し、江戸時代には本格的に各地で大量生産されるようになった。
[本格的な醤油の出現] 「溜まり醤油」と「本格醤油」の違いは麹造りにある。溜まり醤油が空中に浮遊するカビやその他の雑菌類の味噌玉原料への自然着生によるのに対して、本格醤油は麹カビによる散麹(ばらこうじ)であり、今日と同等程度の高度な酒造技術によって溜まり醤油にはみられない清澄な醤油が得られることである。
[麹造り] 種菌を接種するという高度な技術を使った具体的な作業は次のとおりである。①原料処理:麹原料である煮蒸した大豆と煎って割砕した小麦を混合したものを原料とする。②接種:質の良い麹を選んで乾燥し、木灰(あく)でアルカリ性を保たせて種菌とする。③堆積:原料を堆積して30℃ほどで保温し、麹カビの発芽を促す。④切返:堆積した原料の表面と中心部の繁殖を均一化するために切返しを行う。⑤盛込:代謝熱の発生に合わせて、表面積を大きくするために中心部を盛り上げる。⑥手入れ:原料の発熱状況を見ながら、盛り上げた原料を拡げたり揉み返したりして温度の上昇を防ぐ。
[醤油の旨味成分] 醤油は、塩辛さ・うまみ・甘みを強く持つ液体であり、大豆と小麦に含まれるたんぱく質が麹菌の酵素で分解されて旨味を醸し出す。その旨味の主成分であるアミノ酸は、グルタミン酸、アスパラギン酸、ロイシン、アラニン、リジン、チロシンなど約20種類にものぼる多くの成分が互いに寄り合ってバランスのとれた複雑な味を構成していると言われている。
[醤油の香り] 。醤油の品質は色・香・味で評価されるのだが、香りの宝庫といわれるほど芳香成分に富んでいて、その成分の種類は300種以上に達するといわれ、醸造工程中に生成されるという。主なものとしては、エタノールやメタノール、イソアミルアルコールなどおよそ30種のアルコール類、乳酸エチル、酢酸エチルなど約40種のエステル類、そのほか16種類のフェノール類などである。

総論
以上、醤油に関わる話を拾ってみたが、最近のヘルシー志向により、食塩の摂りすぎに関連して醤油も槍玉に挙げられているのでその点を確認してみたい。一般的に醤油には17~20パーセント程度の食塩が含まれているため、塩分を減らした「減塩醤油」なるものが発売されている。しかし、本格醤油に比べると若干風味に欠ける点があるのは避けられない。したがって、対策としては用量を絞って本格醤油を使うのが賢明な方法といえるのではないかと思われる。
味覚の指標として、酸・甘・苦・辛の四つを欧米人、これに塩辛さを加えた五つを中国人、渋い・旨いを加えた七つを日本人が有するというので、日本人はより味覚に恵まれた民族であると言えるようだ。醤油の味は第七の「旨い」に凝縮されており、また昆布やかつお節、干し椎茸などに多く含まれているため、和食を作る時に不可欠な「だし」や調味にこれらが用いられるのも、この味覚を有する日本人特有の調理法であろう。