修正依頼



中原中也

なかはらちゅうや


[中原中也]
今では女房子供持ち 思えば遠く来たもんだ この先まだまだ何時までか 生きてゆくのであろうけど きてゆくのであろうけど・・・

お母さん、僕は本当は孝行息子だったんですよ。今にわかる日がきますよ。(辞世の言葉)


月夜の晩に ボタンが一つ

波打際に 落ちていた。


それを拾って、役立てようと

僕は思ったわけでもないが

なぜだかそれを捨てるに忍びず

僕はそれを、袂に入れた。


月夜の晩に、ボタンが一つ

波打際に、落ちていた。


それを拾って、役立てようと

僕は思ったわけでもないが

    月に向かってそれは放れず

    浪に向かってそれは放れず

僕はそれを、袂に入れた。


月夜の晩に、拾ったボタンは

指先に沁み、心に沁みた。


月夜の晩に、拾ったボタンは

どうしてそれが、捨てられようか。  (月夜の浜辺)