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千家元麿

せんけもとまろ


[千家元麿]
暖かい静かな夕方の空を

百羽ばかりの雁が

一列になって飛んで行く

天も地も動か無い静かな景色の中を、不思議に黙って

同じ様に一つ一つセッセと羽を動かして

黒い列をつくって

静かに音も立てずに横切ってゆく

側に行ったら翅の音が騒がしいのだらう

息切れがして疲れて居るのもあるのだらう、

だが地上にはそれは聞こえない

彼等は皆んなが黙って、心でいたはり合ひ助け合って飛んでゆく。

前のものが後になり、後ろの者が前になり

心が心を助けて、セッセセッセと

勇ましく飛んで行く。

その中には親子もあらう。兄弟姉妹も友人もあるにちがひない。

この空気も柔いで静かな風のない夕方の空を選んで、

一団になって飛んで行く

暖かい一団の心よ。

天も地も動かない静かさの中を汝許りが動いてゆく

黙ってすてきな早さで

見てゐるうちに通り過ぎてしまふ。 (雁)